飼い主が急逝なさった猟犬の回収に行ってきた。
これがたいへんな作業だった。この犬、なんと飼い主の奥さんや息子さんに向かっても吠える。
亡くなってからずっと犬小屋の金網の隙間からドッグフードを落として餌やりをなさっていた。
溶接用の厚い手袋を準備して、餌を食いに来た時、首輪を掴もうとしたが噛まれた。強くは噛まないが、臆病な犬ほどこうして噛みつく。小型犬ならこのまま強引に掴むが、紀州犬だから無理だ。本気だされたらこんな手袋など意味はない。
これまで軽トラで使っていた犬小屋を前に置いて、餌で釣って出そうとするが警戒して出ない。市役所からも担当者が来て、ベニヤ板で犬小屋を取り囲んでやっと入ってくれた。もともとこの犬小屋で山に行ってたのだから入るとおとなしくなった。
新しい飼い主は私の同級生で、気の長い男だから徐々に慣らしていくだろう。子供の頃の運動会で彼は私にとって大切な男だった。彼が休んだら駆けっこで私がビリになる。
「女と犬のことなら任せとけ」
自信満々だが、それならなぜいま独身で犬がいないのだろう。ユンボを持っているので獲物を埋める穴を掘るのは速いと妙な自慢をして帰った。
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