毛利隊長は私の狩猟の師匠である。
さきほど愛犬が戦死したとの報告があった。最後に残った1頭であった。我が家のQちゃんの姉になる。
隊長グループはイノシシを専門に狙っている。目前をシカが通りすぎても撃たない場合がある。賞金がでるのに。
先日より追い続けていた30貫クラスの大物を今日、ついに追い詰めたそうだ。急斜面のシダに隠れたイノシシのまわりを犬は吠え続けて隊長が来るのを待っていた。
到着してから1時間以上たってもイノシシはシダから出なかった。相当に大物だ。
ついに犬がシダに入った途端に、まくられて隊長の頭上を飛んで行った。もちろん姿が見えたので隊長は撃ったが、そのままイノシシは突進してきて隊長も跳ね飛ばされた。直撃弾を喰らっているのでその場でイノシシは絶命した。
隊長は打撲はしたがなんとか怪我はなかった。でも犬からのGPS電波は途絶えて、音声マーカからの反応もなくなった。
他のメンバーを呼んで獲物を引き下ろしていたら、その途中に愛犬が死亡していたそうである。
イノシシの牙に延髄を刺し貫かれていて、そのさいにGPS機器も壊されていたそうだ。
「もう歳だから猟をやめろということだろうね」
隊長はすっかり弱気になっている。
こういう事態が予測できたので、猟期前に私は仔犬を飼うことを提案していた。屋久島犬の仔犬がいたのだ。
「いまの犬は慎重なので大丈夫だろう。年齢からしても猟ができるのはあと2,3年だろうからこのまま1頭でやるよ」
そう言って仔犬の件は断念されたのだった。
「今猟期はもうやめて喪に服してください。犬は来年までにどこかで見つけますから」
イノシシ猟はこうなる。必ず猟犬は負ける。だってイノシシは100Kgだが、犬はせいぜいが20Kgである。勝てるわけがない。
かつて知っている限りの周辺イノシシ猟師の情報を収集して、致死率を計算したことがある。年間で20%である。5頭いれば1頭は死ぬ。5年間戦い続けることができる猟犬はいない。(ちゃんと仕事をする犬の場合だ)
愛犬を失くすことは家族を亡くすことである。
猟師はこんな悲しみに耐えて猟をしている。僅かな賞金などで、「業として」などとバカタレどもが言う。同じことを靖国で言ってみろ、アーリントンで言ってみろ。
大切な愛犬のために猟をやめるという選択肢もある。現に私の叔父貴はそうした。
でも猟犬は戦うために生まれてきた。戦うことが本能であって、それで死んでも本望と思っているかもしれない。猟師としての私もそう思っている。無益な争いをしたくないのでシカを追いかけているが、当然にイノシシに遭う場合もあるだろう。
負けるかもしれないが、それはそれでしかたがない。犬に限らず誰だって、どうせいつかは何かに負けて死ぬのだ。
毛利隊長の愛犬に合掌
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2016年3月10日木曜日
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2 件のコメント:
猟に参加させてもらうようになり、2シーズンが終わります。
イノシシや鹿を止める事に熱中するばかりで、こうした愛犬の事故には目を向けて来ませんでした。
目の前で怪我をする猟犬を見ていないからだけじゃなく、自己中な思いだけで猟に参加してるからかもしれません。
家族のような猟犬が絶命する割合を知って困惑してます。
大きさも、体力も違う動物がぶつかる訳ですから、仰る通りですよね。
覚悟をもって猟に出てる猟師の方の思いを知る事で改めて狩猟と向き合い、安全を祈念するばかりです。
合掌
お散歩隊は、F園長の犬2頭をはじめ、我が家の「ちょろ君」、S選手の「スボ君」を失っています。
「切った張った」の世界へ入り込んでしまったわけです。もう抜けられませんなあ。
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